8月23日、上野村中ノ沢毛ばり釣り場への釣行。
当初は別の川に1泊しての釣行を予定して近くのキャンプ場にバンガローの予約をしていたのだが、釣行数日前に突然のゲリラ豪雨に見舞われてキャンプ場が被害を受け、営業できない状態になってしまった、と連絡が来た。
それではしょうがないと宿の手配をしようとしたが今度は、夏休みの団体が入っていて満員です、とつれない返事。もっともキャンプ場が営業できなくなるほどのゲリラ豪雨があったとすると川の状況もどうなっているかわからない。他の宿を探すよりも川を変えたほうがよさそうだと思い、けっきょく泊りはあきらめて上野村の特設釣り場に行くことにした。
例年、お盆の期間は混雑を避けて釣りにはいかないが、そもそも今年のお盆は台風でさんざんだったから、釣りどころではなかった。お盆の後も猛暑で天候は極めて不安定、いつどこで猛烈なゲリラ豪雨が出現するかわからないから、渓流への単独釣行はやっぱりちょっと不安を感じる。その点、管理・整備された釣り場は安心だ。(もちろんまったく安全だ、というわけではない)
そういうこともあって、予約の電話をするときも満員ですと、いわれるのではないかと思ったのだが、この日は今のところ初めての予約です、とうれしい返事だった。考えてみればこの猛暑だし、毎日ゲリラ豪雨の脅威はあるし、みんな釣りになんかでかけないのかもしれない。まあ、南会津以来ずっとロッドも振っていないし、渓に立てればよし、というくらいのつもりで出かければいいじゃないかと納得したのだった。
釣行当日、いつものようにまずはヴィラ裏によって様子をうかがう。午前7時、C&Rエリアの最上流部には鮎師が一人いるだけだった。もちろんライズのラの字もなく、水面下できらめく魚影も見えない。とりあえずウェットウェーディングの支度をしてロッドをつないだ。フライは♯14から♯16へと替えながらしばらく流してみたが、反応してくるのはハヤばかりで小1時間のあいだヤマメの気配すら感じられなかった。
想定内といえばそうなのだが、もちろんうれしいものではない。気分も沈んだまま向かった川の駅には、いつも何人かいるフライマンはおろか鮎釣り師らしき姿もなかった。中ノ沢はその後、予約もなく今日は貸し切りだそうだ。やっぱり釣れないのかなー、とスタッフに問うでもなく話しかけると彼女も、はぁ~、と不安げな返事。いかんいかん「貸し切りだからね、なんとか頑張ってきます!」と空元気を残して漁協を後にした。
入渓は今回もA区、ラインの長さを確認しようというくらいの気持ちで落としたフライにいきなり良型がフワーっと寄ってきたがティペットが固まっていたのか、すぐにエスケープ。ウワッ、なんだよ、いきなりかー、1投目、やっぱり気を抜けないんだよなー・・・ 何年やっていても同じ過ちを繰り返す。
こっち側にいたってときは対岸の巻き返しはお留守。一番で釣れるかどうかっていうのは重要なんだ。でもこんなところからフワッと出てくるってことは意外とプレッシャーがかかってないのかもしれないと前向きにとらえることにする。
ヴィラでは水は多くもなく少なくもなくという感じがしたが、中ノ沢はやや減水しているようだった。台風の時もそれほどは降らなかったらしいし、その後のゲリラ豪雨も限られた範囲で突然バッと降るタイプで、このあたりはその範囲外だったのだろう。
釣り始めて40分ほど、対岸のちょっと流れが弱まるポイントで水面下に影が動いたような気がした。すかさず合わせたがスラックの入ったティペットを回収しきる前に流れ出しから一気に下に落ちてしまった。写真には写っていないが、落ち口に腕ほどの太さの流木が横たわっていて、その隙間から落ちたか流木に引っかかったか、引きずり出すことはできそうになかった。
しかたなく、流れを渡って流木を取り除いてみると、ティペットの先にはブルブルと生命反応が感じられた。
落ち口にたまっていたゴミをよけてなんとかレスキューに成功したイワナ、ちょっと痩せているが関東のイワナらしいワイルドさを備えた魚体だ。全体に濃い茶褐色で白斑が薄い、南会津のイワナとは違う魚種のようにさえ感じるくらいだ。
白斑のくっきりした桧枝岐の美形イワナ
それから1時間あまり、これといった当たりもえられないまま時間が過ぎていった。水温は20℃ちょうど、イワナも夏バテ気味ということだろうか、ウェットウェーディングで足は水に浸かっていてもちょっと動いていると汗でメガネが曇ってうっとおしい。
最初のイワナと同じようなポイントでまた同じように水面下で影が動いた。さらにごていねいにも一段下に落ちるところまで一緒だった。やれやれとポイントまで行って落ち口に腕を突っ込んだが、白泡の中は流木だらけでティペットがたどれない。けっこう太い木も沈んでいてびくとも動いてくれない。ぐりぐりやっているところで切れてしまった。
釣れないので進行が早い。もうA区終点のえん堤が見えてきた。ぜんぜんダメじゃん、などと思いながら流れに目をやるとなんと良型が目の前に浮いていた。
ちょっと強い流れがゆるく左にカーブして手前の大岩にぶつかった流れが、上流側は反転していく流れに、下流側は岩を回り込んで本流に合流していく、その分かれ目あたりにでかいのがうろうろしながら餌を待っているような動きをしている。
気づかずにあと一歩進んでいたら、気配を察して逃げられていただろうと思えるギリギリのタイミングだった。距離感と水深を考えるとじっくり見ているような余裕はないと思えた。ティペットを見ただけで逃げられるかもしれない。一発勝負だ、とフライを投げた。アアーッ、ちょっと左だ、と思ったが魚影がフライを追った。
食った瞬間ははっきりとは見えなかったが合わせたロッドにはしっかりした手ごたえがあった。よっしゃー!いいイワナだ!
やせていたが長さは32㎝、立派な尺イワナだ。このあたりのイワナは大きくなると斑点が細かく薄くなり、無班のように見えてくる。このイワナはお腹の黄色が胴全体にひろがるように色づいて、独特の美しさだった。尾びれの先はすりきれて丸みを帯びているが、これは放流ものだからではなくて、山岳渓流の厳しい環境を生きのびてきたためだろう。
いい面構えだった。それにしてもここまで、あれやこれやのポイントをコツコツと叩いてきても返事がなかったのに、まさかの尺イワナが釣ってくださいと言わんばかりに目の前に浮いているとは。こういうのがあるから、フライフィッシングはやめられない、ということになる。
流れをまたいだ向こう側でまた出た。
連続していいサイズとはいかない、かわいいヤマメ。この後、えん堤まではノーフィッシュ。
一度くるまに戻ってゆっくりランチタイム、午後は最下流部から入りなおすことにした。
いいイワナが出そうな反転流だったが、奥のほうからすっ飛んで出てきたのはまたちびヤマメ。
ここもイワナだろうというポイントだが
ちょっと大きくなったヤマメ、最上流部から最下流部まで大きく動いてきたがなぜかヤマメが続いた。
そしてこの直線的な瀬はヤマメのもの、瀬尻から徐々に上流へと打ち返していく。ちょうど開き始めのあたりで三角の頭がニョキッとせり上がった。ウホーッ、いい出方、いいサイズだ!
今度はイメージ通りのヤマメ、28㎝あった。幅広にして淡い体色、渓流のヤマメとして完璧な美しさだった。
さあ、そろそろここをラストとしようという落ち込みわきの反転流、最後にもう一度、イワナに会いたい。
願いが通じたか、いいイワナが出てくれた。全体が暗褐色で背中は細かい斑点に覆われ、体側の暗みを帯びたオレンジがいかにも”岩の魚”を思わせる。神流川の、というか北関東のイワナらしい野性味にあふれる姿だ。
入渓するまではどうなることかと不安が勝ったが、来てよかったという釣行になった。
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