いよいよ明日からは長い長いゴールデンウィークの始まりだ。例年、GWの間は釣りもせずにおとなしくしている。釣り場も混雑するだろうが帰りの渋滞がとにかく苦手だ。GWを心待ちにしているサンデーアングラーの方々には申し訳ないが、こちらは平日アングラー、わざわざ込み合う釣り場と道路に出かけていくこともない。むしろ平日ゆっくり釣りができる身なのに混雑に一役買うのは気が引ける。
そんなことを言い訳に考えながらGW前の荒食いだ、とばかりに火曜日に出かけたばかりなのにまた昨日も釣りに行ってきた。火曜日の釣りはちびっこイワナばかりだったが面白かった。大きいにこしたことはないが小さくたってイワナはイワナだ。近所の川のオイカワ釣りだって十分に面白いのだから、人の気配のない静かな源流でイワナと戯れるのが面白くないわけがない。かかったりかからなかったり、そのたびに「ヨシッ!」だの「チキショー!」だのと童心にもどったような釣りだった。
今度はヤマメをねらおうと車に乗り込む。水曜の夜から本降りとなった雨は一夜あけて弱いながらまだ残っていた。渓を潤すほどの雨がめざす川で降っていたのかはわからないが水が増えるほどではなくても魚たちの活性が少しは上がるのではないかと期待した。そして考えてみればこれが平成最後の釣行となるのだった。
林道にはまだ釣り人らしき車は見当たらなかった。前回のイワナの渓はまだまだ冬枯れの景色だったが標高では300Mばかり低いこの辺りは新緑が勢力を増しつつあった。あいにくの曇り空で輝く緑とはいかないが暑くなく寒くなく空気はしっとりと湿り気をおびて気持ちがよかった。
期待した水量は相変わらずの渇水状態だった。未舗装の林道には水たまりがいくつもあったからそれなりに雨は降ったのだろうが川の水が増えるほどではなかったらしい。
もう少し水があれば瀬尻にもヤマメがついているのだろうがこう水がないと浅すぎていつけないのだろう、走る姿もみえなかった。水温は13℃、ヤマメたちは瀬にはいっているだろう。ねらい目は長い瀬のひらきだが、反応はまったくなかった。GW前の荒食いどころかすきっ腹をかかえたまま退散かな、と肩を落とす。
こういう場合、さっさと場所を替える人も多いのだろうが、私はどうもまた車で移動するというのが好きではなくてこのまま釣り続けてしまう。別の場所へいってもそこがいいかどうかはわからないし移動の時間がもったいないという貧乏性なのだろう。ひょっとしたら次の流れに魚がいるかもしれないし、ライズだってするかもしれないと思うと、ついだらだらと遡行を続けてしまうのだ。
そんなわけで釣り始めてもう3時間もたつ、というころやっと反応があった。
なんでもないような平瀬の真ん中で一瞬影が動いたように見えた。半信半疑でなんどかフライを流してみた。渓流のフライをやっていると一投目に魚が反応することがけっこうある。すんなりヒットしてくれればいいが、乗らなかったときは、もう一度とキャストするのだが一投目と同じようにフライを流そうとしてもこれがなかなか難しい。川の流れというのは常に同じように流れているように見えるが実はひとときも同じ形で流れていることはない。フライがどう流れるかは偶然のなせる業なのだ。腕はもちろん大事だが”釣れる”ということはいろいろな偶然の積み重ねでもある。だから面白いというわけだろう。
能書きはともかく何度目かのキャストでフライをくわえてくれたちびっこヤマメ。どうも火曜日の釣運にわずかな残り物があったかというような1匹だった。
さらに釣り上がって堰堤に到着。ここではぽつぽつとライズも見かけた。右側にほとんど水の動かない泡だまりがあってライズがあったがフライに反応することはなかった。写真の左手から突き出した岩に流れがぶつかるポイントでライズ。これは取れるかもしれないとキャスト、出たが乗らない。少し時間をおいてもう一度。
今度は食った。ライズの様子ではもう少しいいサイズかと思ったが、1匹目よりわずかに大きいかどうかというヤマメだった。
いったん林道に巻いて堰堤上を釣り上がる。車を止めた場所まではすぐの距離だった。
ちょうど駐車スペースにさしかかろうかという落ち込みからの短い流れでしぶきが上がった。なんとかロッドを曲げてくれるサイズ。6寸ぐらいかなと背中のネットをつかむがペットボトルホルダーにコードがからんで外せない。モソモソやっているうちに無念のナチュラルリリースとなってしまった。きれいなヤマメだったので写真に残せなかったのは残念だった。
車に戻っておにぎりをかじりながらしばしの休憩後、車で1kmばかり上流へと移動してみた。退渓時間までもうあと少しだけロッドを振ることにする。しばらく行くと通らずに突き当たり、ここは林道にパスしてもう一度川に下りると今度はすぐに堰堤だった。この堰堤を最後のポイントにする。
手前の駆け上がり、左右の流れを流すが反応なし。両サイドとも明確な反転流は発生していなかった。目の前の壁際で魚がはねたのが見えた。四角い開口部と左の滝の中間あたりだった。茶色っぽい体色でそこそこの大きさのように見えた。最後のチャンスだとドキドキしながらキャスト。ショートだ、もっと奥へ、出た!あー、かすっただけか?
障害物もないところでのキャストだからキャストは難しくはないのだが、手に汗をにぎるような緊張感にまわりの空気が張り詰めるようだった。
タイミングをはかってもう一度、少し右か、食った!あー、すっぽ抜け!!
万事休したか、フライを見るとティペットがインジケータに絡んでいた。ティペットを完全にターンオーバーさせずにふわりと着水させるとフライの上にティペットがかぶった状態になることが多い。この状態のフライを魚が食ったときに間が悪いとティペットがインジケータをしばるように絡んでしまうことがよくある。インジケーターの付け根がテコの支点になってしまうのでフッキングしないのだ。
フッキングはしなかったけれど触ったのは間違いないしな、もうだめだろうな、とは思ったがあきらめきれない。食い気はあるんだ、間違いなく。時間をおいてフライも替えてもうワンチャンスか。たばこを1本吸って、フライを結び替えた。
四角い穴と滝の間になんどかフライを置く、しかし反応はなかった。もうさっきのような緊張感もなかった。やっぱりなー、もう出ないよなー。悔しまぎれに滝の落ち込みにフライを入れてみた。真ん中の太い滝と右の細い滝の間のすき間に落ちたフライが流れに乗って動き出す。そのフライを影が追った。
まさかの平成ラストフィッシュだった。21cm けっして大きくはないが見事に美しい野生のヤマメだ。
それにしても劇的な出会いで個人的にはおおいに感激させてもらった1匹だった。
メモリアルフィッシュとなりそうな1匹を連れてきてくれたフライはエクステンドボディのメイフライダン、いい仕事をしてくれた。
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