群馬県の渓流は20日で閉じてしまうのでこれが最後かなと思いつつ、中ノ沢と本谷へ2日間の釣りに行った。
本当はキャンプをしての2日間の釣行を考えていたのだがどうも雲行きが怪しかった。濡れたキャンプ道具の片づけが面倒なので軟弱ながらヴィラせせらぎかやまびこ荘に泊まろうと思ったがどこも満杯で予約が取れなかった。もっとも予約を試みたのが釣行前日の夜だからそれはまあ仕方のないことなのだ。何か所かに電話をかけてようやく今井屋旅館という古い旅館に宿をとることができた。
宿が取れたので気持ちにも余裕ができて当日は朝6時過ぎとゆっくり家を発った。高速道路を下りて湯ノ沢トンネルの手前の南牧村あたりで弱い雨が降り始めたがトンネルを抜けると雨は降っていなかった。
1日目は中ノ沢のF区に入った。水はやや高めかというところ、濁りはなくこの水量なら減水よりはたぶんいいんじゃないかと思えた。フライはまだ夏のフライでいいかとテレストリアルの#14を結んだ。
口明けのヒットは意外と早く来た。
二手に分かれた落ち口の手前側からフライを迎えてくれた。
褐色を帯びた体色が季節の進行をいまさらながらに感じさせてくれる。今週、月曜日は仕事に行くのもまだ半そでシャツでよかったが、火曜日は長そでを着た。そしてこの水曜日、上野村に着いてみると思わず「寒むっ!」とつぶやきがもれるほどひんやりとしていた。温暖化で9月はまだ夏、という年が数年以上は続いてきたように思うが今年の9月はもうすっかり秋のようだ。
2匹目のヤマメが釣れるまで1時間ほどかかってしまった。最初が早いと次が続かないのはいつものことだ。
このヤマメは手前に写っている苔むした丸い岩の向こう側にフライを落としてヒットした。フライは岩に隠れて見えていなかったのだが着水してしばし、聞き合わせをしてみるとググっときた。してやったりなのか釣れちゃったなのか微妙なところだ。
今度は落ち込み脇の小さな反転流、すっとフライが吸い込まれてひょっとしたらイワナかと思ったが
ちょっと小ぶりなヤマメだった。
穏やかな瀬の真ん中で
今度はここで生まれたヒレピンヤマメ
右岸側のごく浅い水たまりのような流れから勢いよく飛び出てきた
場所からいってもっとかわいいのかと思ったらまずまずのサイズだった。イワナはよくこんなところに良型がいたりするけれどヤマメってのはめずらしいかも。
ここで午前の釣りを終了して管理棟にもどり昼休憩をたっぷりとった。朝あいさつを交わしたフライマンがちょうど戻っていたので、食後のコーヒータイムに誘ってお互いの今シーズンの話などをした。
午後は少し上流へ歩いてG区を釣ることにした。なかなか反応が現れなかったがやっと1匹のヤマメを釣ることができた。
黒く錆びた雄のヤマメ、とがった鼻先はこれから始まる産卵行動で他の雄たちに一歩でも先駆けようとする野生の強さの象徴だ。
このヤマメを放したところで後ろから二人の釣り人が追着いてきた。なんでもフライボックスを落としたらしく探しているのだとか。それはまあしょうがないのだがこちらがロッドを振ろうとしているその先へとずんずん進んでいってしまうのには参った。釣りするわけじゃないからいいよね、ということなんだろうがそこから先はもう釣りにならない。ぎりぎりマナー以内のつもりなのかもしれないが、マナーのイン・アウトをどう判断するか、人格が試されるところだなと苦笑いしながらその先の退渓路から道路に上がることにした。
その夜の宿をとらせてもらった今井屋旅館さん、泊まったのは初めてだが役場からすぐ近い興和橋の上流にあって居間の欄間には著名人のサインがたくさん飾ってあった。「トリック」や映画「クライマーズハイ」の出演者やスタッフなどのサインもあって仲間由紀恵もこの古い旅館に泊まったのだろうかと思うとなんだかおかしかった。
2階の廊下にはいつ頃のものなのか立派な甲冑が飾ってあった。
かと思うと宿の前にはパンダとも犬ともつかないコンクリート像が、よく見ると前足の指が両足とも6本きっちりあるのが笑える。この前は何度も通ったことがあるがこの像には気が付かなかった。(パンダの指は5本で、たしかにあと2本指のような骨があってこれで竹を器用につかむことができるのらしいが、こんな具合に6本の指がきれいに並んでいるわけではないとのこと。)
翌朝、本谷に入るまえに役場前で一振りしてみた。対岸の緩流部や反転流にヤマメの姿が見える。しばらくするとライズするやつもいるのだが太い流心を越してのキャストではフライをなかなか止めておけない。それでも何度か反応するヤマメはいてあと一歩なんだよなー、と悔しかったが食わせることはかなわなかった。
流心越えのねらいはあきらめて上流の瀬にフライを投げてみると数投目で流心に飛沫が上がった。
こちらのヤマメは昨日の中ノ沢のように錆びていなかった。沢と本流では日当たりや水温の違いで季節の進行にも差が出るのだろう。もっとも1匹だけでは単なる個体差かもしれないが。とにかく1匹釣れたので受付をしに川の駅へと向かうことした。
2日目は本谷の4番、水はこちらもやや多めで林道から覗いてみるといつもは浮いている大型ヤマメが何匹も見えるのだが今回はほとんど姿が見えなかった。
入ってそうそうに良型をすっぽ抜けた。反応はいいかもしれないと少し期待する。
中心の流れから外れた小さなプールでフライが静かに吸い込まれた。イワナかな昨日はイワナ釣ってないからな、イワナであってほしい。寄せてくると色も茶色っぽくて期待が高まった。
だがネットに収まったのは秋色に染まったヤマメだった。中ノ沢ではどちらかというと灰褐色に錆びたヤマメが多かったがこんなふうにオレンジがかったヤマメはいかにも秋の渓魚といいたくなってちょっとうれしい。
また石に囲まれて小さなプールになっているスポットをねらう。護岸際で三角の鼻面がにゅっと突き出したがフッキングしなかった。もう一度があるかとキャストする。護岸際では反応がない。プールの中心にフライを落とすとガバッときた。
今度は雄の秋色だった。全体としては灰褐色の体側にオレンジ色をぼかした美しいヤマメだ。放流魚ではあろうがヒレも大きく文句のない魚体だった。
この小さなプールの反対側、左岸の大岩の脇に尺はありそうな魚影を見つけた。ミスキャストで台無しにしないよう慎重にロッドを振った。フライが魚影の少し左に着水したと同時に大岩の陰から別のヤマメが飛び出した。ねらった大物でないのが残念だがいい引きだ、と、例の大物がヒットしたヤマメを追いかけてすぐ足元まで寄ってきた。さすがに最後は私の姿に気づいて一目散だったが、思わずネットですくってやろうかというくらいに近くまできたのには驚いた。
釣れたヤマメは25㎝ほどで決して小物じゃないのだが追いかけてきたヤマメとは親子ほどの差があった。写真を撮り、ヤマメをリリースして川を見るとなんとあのヤマメがさっきと同じ位置に定位していた。とっくに石の下にでももぐりこんだかと思ったがなんというふてぶてしさだ。
ダメもとでフライを投げる。何度かいいところに入ったフライにヤマメが興味を示す。だが、逃げはしない。すれきっているのか、食いたい気があるのか。ヤマメの少し上流に落ちたフライにドラッグがかかってこちら側にすっと動いた。ヤマメがフライを追って向きを変えた。そうだ、食え!
ヤマメがスピードをつけてフライをくわえた。やった!食わせた。ロッドが大きくしなって魚の重量を手元に感じた瞬間、スポーーーンとすっぽ抜けて目の前が白くなった。
追い食いは食いが浅い、を絵にかいたような見事なすっぽ抜けだった。悔しいが楽しませてもらった。煙草をふかしてしばし余韻に浸った。
ふと対岸を見るとさっきの小さなプールで魚が動いたように見えた。下流から見ると小さなプールに見えた流れもこちらから見るとプールというほどのものではない。ひょっとするとまだいるのかも、護岸際にいたのとヒットしたのは別の魚だったかもしれない。
やっぱりいた。ちょっと痩せてはいるがヒレピンの年越しヤマメだ。
それにしてもイワナを釣ってないんだよな、というのが心残りだった。しかしいかにもという反転流や泡溜りはことごとく静まり返っていた。イワナが好みそうな穏やかなスポットからも出てくるのはヤマメだった。今回はどうもイワナからは見放されているらしいとあきらめかけていたが
ダウンで送り込んだフライを対岸の最後の肩口でくわえた。
なんともひょろ長いイワナがかかった。それでも長さは18㎝ほどはあった。餌を摂るのが下手なんだろうか、頑張って食えよといって流れにもどした。
2日間の釣行の最後は3番の堰堤下。前回いい思いをした左の溜りはまるで音沙汰がなく、右側の瀬から飛び出したヤマメは体全体を水面に見せるドルフィンライズでフライに躍りかかるという派手な演出を見せてくれた。
ラストフィッシュは少しだけ秋の色合いをまとったヤマメだった。
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