魔界の底に

wind knot

2017年08月09日 12:50






だいぶたってしまったけれど先週8月2日の釣行。夜は飲み会があるので早めに帰るつもりでイワナの渓へと出かけた。
天気は曇り一時雨の予報だったが、向かう途中も分厚い雲に覆われた空はいつまでたっても夜が明け切らないようだった。霧とも雨ともつかない細かな水滴がフロントガラスを覆い薄暗い景色とあいまって視界が悪く走っていてもストレスがたまる。

この天気では無理して釣場に着いても気持のいい釣りができるわけもないと、何度も引き返したくなるのを無理になだめて高速道路を降りた。
渓の入り口に車を止めて歩き始めた。霧のような雨は続いていた。森に入ると頭上の木々からポタポタと雫が落ちてくる。ときおり強くなる雫は霧が雨に変わったのか、たっぷりと水をたくわえた森にいるといま雨が降っているのかどうかがわからない。仕方なくレインジャケットをはおったが湿度90%以上の湿った空気のなかアップダウンの激しい川沿いの道を上っていくとすぐに汗が噴き出して着ていたTシャツはびしょ濡れになった。頻繁に足を止めて流れる汗をぬぐう。メガネもすぐに曇ってしまうのがうっとおしい。






40分ほど歩いてようやく川に降りた。ロッドをつなごうかとザックを下ろしかけたとき10メートルばかり先になんと人影が見えた。やっちまったかと思いながら釣人に近づき声をかけた。
二人で来ていてもうひとりは上流にいる。入渓したのは500メートルばかり下流からだと言われた。そういえば渓の入り口に1台とめてあったのを思い出した。工事関係の車だと思っていたが先行者だったか。とにかくどうすることもできないので、来た道を取って返す。いいかげん下ったところでロッドを振りはじめたが、まるで反応のかけらもない。というよりもテンションは下がりまくってキャスティングにも集中できない。おまけにあれほど流れていた汗に濡れたTシャツがウエットウェーディングの足元とともに体を冷やす。雨は相変わらず降っているのかいないのかわからないまま頭上から雫だけは落ち続けている。

そのうちにあたりがまるで夕方のように暗くなってきた。川は濃い霧に覆われてフライさえも見づらくなってきた。逢魔時 とは夕暮れ時のことでこの時間はまだ昼ちょっと前、魔物が現れる時間ではないが、雰囲気だけは十分になにが現れてもおかしくないような禍々しさにあふれていた。まるで魔界の谷底にでもいるような気持になってきた。単独行というのはこういうのに弱い。もうこれ以上は渓に立っていられないと川沿いの小道に上がった。











ほうほうのていで道をしばらく下ると周りが明るくなってきた。さっきは山を覆う雲の中にいたようだ。ふたたび体も温まってあたりも明るくなってくると先ほどの心細さはどこかへ消えうせ、このままボウズで帰っていいのかという思いが首を持ち上げる。





渓の入り口までもどったところでダメモトでふたたびロッドをつないだ。いくつかのポイントを流したところでフライがかすかな水面の盛り上がりとともに消えた。





ボウズだけは逃れることができた。貴重なイワナだった。
時間はちょうど1時だったがもうこれ以上釣りあがっていく気にはなれなかった。

車までもどると朝とまっていた車はなくなっていた。先行者の車じゃなかったのか、先に上がったのか。餌釣りのひとはフライより朝もあがるのも早いとは思うが降りていく人の気配は感じなかった。ほんとうに先行者だったのかな(怖)。






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