1日目は私のほかに登山の人が一人、登山の人といっても明日からこの上の山小屋で奥さんといっしょに働くのだそうだ。奥さんは先行して山小屋に入っていて明日はここまで迎えに来るのだとか。小屋番のHさんには「ふつうは逆だね、だんなが奥さんを迎えにくるでしょ。」とからかわれていた。
翌朝、天気は薄曇で気温は13℃、水温は10℃ちょっとあった。林道の終点まで下って釣りあがることにした。
芦安の案内所にクマの目撃情報が掲示されていたが、ここ両俣小屋でもつい数日前に小屋の前の休憩用テントあたりに出たそうだ。野呂川は両俣小屋の先で右俣と左俣に分かれるがあまり小屋から離れて奥へ入るのも少し恐ろしい気がした。
林道終点から川に降りてきた最初のプールには数匹の良型イワナの姿が見えたが、フライには見向きもしてくれなかった。
ここはイブニングとかじゃなきゃだめかなと思ったら元気よく飛び出したイワナ。
小ぶりながらも早々のファーストヒット。
前日も感じたが大場所といえる長いプールにイワナがたまっているようだ。開きと流芯脇のちょっと流れが緩くなるところとセオリーどおりの展開でポツポツとヒットする。
こういう速い流れの脇にもいることはいるがイワナの出方も早くてなかなかフライが口に入らない。
もちろん瀬脇や落ち込みの反転流ははずせないポイントだが、ここでもアタックが早い。やはりC&R区だけあって何度も釣られた経験を持つイワナが多いのだろう。そしてどこにいるイワナも2度目のアタックはまずない。
会わなかったが初日は私のほかに釣人が二人はいっていたという。2日目はお昼ごろにということは初日の私と同じころに二人、さらに3日目はたぶん1本前のバスで二人と、平日ながら連日3人ほどの釣人が入っている。
こんな山奥まできてC&R指定の川があり連日叩かれてたっぷり学習しているイワナがいるというのもなんだか不思議な感じがする。この場所自体は秘境といっていいようなところなのだがそこにいるのは人なれしたスレイワナなのだ。
とはいえC&R指定のおかげなのだろう、魚影は濃くきちんとフライを流せば反応はよかった。2日目はキャッチできたイワナはちょうど20だったがすっぽ抜け、バラシも含めてたっぷり遊んでもらうことができた。
小屋までのあいだにこんな大崩落地がある。崩落時にはおそらく川全体が土砂に埋まってしまったのだろうが九州の大雨災害のことを思わずにはいられなかった。
今回の大雨災害のはじめのころ関東でも強い雨が降った。その翌日だったかにこの野呂川でも下流の広河原地区に入渓した釣人が流されて命を落としている。今はいつでも最新の天気予報をチェックできるし、各河川の水位情報などもリアルタイムで入手できる。釣行時にはいろいろなデータをしっかりと確認して安全を第一に行動しなければいけない、と改めて思う。
スタッフの青年に実は小屋の前あたりに大物がけっこういる、と聞いていたので昼前の一番いい時間に小屋付近までもどりたいと目論んでいたのだが、思ったよりも時間がかかった。もたもたしている間に新たに到着した釣人が小屋に向かっていたので彼が小屋前から入る可能性を考えると急いでもしょうがなさそうだった。
1時過ぎにいちど小屋にもどって昼食にした。さきほどの釣人は小屋の前から入って上流にむかったようだった。休憩の間に今度は若いテンカラの釣人が到着した。そういえば小屋のスタッフの青年もテンカラ竿を振っていた。やはりテンカラブームなんだなと感心する。
休憩のあと数匹のイワナを釣って
イワナがたまっているプールに来た。前日はイワナたちの反応は薄かったが今日は何度もアタックがある、だがなかなか乗ってこない。くわえきれていないのか、直前でよけているのか。
徐々にラインを奥へと伸ばしていく。右の白っぽい大岩の前で水面が盛り上がりやっとヒット。
思わぬ強い引きにスレかと思ったが、なんとか寄せてくるとスレではなく大物がかかっていた。ティペットは6Xだから無理はできない、皮一枚のかかりどころならすっぽ抜けもある。慎重にやり取りをしてようやくネットイン。
尺ヤマトだった。
前回の野呂川釣行記 1 にリンクした産経ニュースの記事によるとヤマトイワナが25cmに成長するまで8年から10年かかるとあった。だとすると尺まで成長するのに何年かかるのか。顔つきからすると雌のイワナのようだ。今年も産卵してその後も生き延びてくれと念じながら静かに流れに戻した。
尺ヤマトに出会えた感激も覚めやらぬまま釣りあがると8寸前後の良型が続いた。
2日目は分岐までいって納竿とした。
小屋での夕食の後、浜松から来られたというフライマンと互いに持ち寄った酒を酌み交わしながら釣り談義に花が咲いた。私よりは10歳ほど若い人だが釣りの経験が豊富で話はつきなかった。フライの話、ヤマトイワナの話、クマの話と語り合うことは止めどもなかったがフラスコに入れたウイスキー、小さなペットボトルに入れた焼酎が尽きたころあたりはまだ薄闇だったがお開きにした。登山の人もいるので明日の朝食は4時半と早い、小屋の消灯は午後8時だ。
翌朝、小屋のトタン屋根をたたく雨音に目が覚めた。トタンをたたく雨音はやたらと大げさになるが、それを差し引いてもそこそこの雨が降っていた。少し待って小ぶりになれば釣りをするには支障がないが、同宿の登山の人にはそうは行かないようだった。山頂付近はかなり悪天候が予想されるとしばらく様子を見ていたが6時ごろになって雨はやみ山の上の空も明るくなってきたところで登山道にむかって歩いていった。
単独の登山者で最初は口数の少ない陰気な人だなと感じて前夜の夕食の際は互いに話しかけることもなかった。朝になって天候の回復を待つ間に話しかけてみると意外と気さくな人でそれぞれの釣りのこと、山のことなどを話した。
山小屋に泊まったのは今回が初めてだが、たとえ一夜限りの出会いとはいえこうして話をし、互いに感心したり笑ったりというふれあいが楽しかった。
私の3日目は1時半、野呂川出会い発のバスに乗ることにしたので両俣小屋を11時前には発たなければならない。10時には小屋にもどって早めの昼食をとってから出発することにした。釣りができるのは実質2時間半ほどだ。
小屋の前から入って右俣沢をいけるところまで上がってみる。
途中で昨夜いっしょに酒を飲んだフライマンが声をかけてくれた。これから広河原にもどって北岳に向かうという。今夜は途中の山小屋に泊まり明日は山頂をめざすそうだ。両俣小屋を訪れる人は登山の人、つりの人、両方をたしなむハイブリッドな人と楽しみ方はいろいろだ。
時間が早いせいか明け方の雨のせいかイワナの反応は芳しくない。前日尺イワナを釣ったプールも沈黙。すぐに分岐から右の沢に入る。川幅は狭くなり木立が増えてくる。時間がないとあせるほどのことはないのだが、頭上の枝にフライを取られる。空はどんよりとした曇り空で沢は薄暗かった。
ふだん上州の薄暗い源流でイワナを釣ることが多いのでできれば明るい渓でイワナを釣りたい。そう思っていたらだんだん空が明るくなってあたりを覆っていた重苦しさも薄らいできた。
3日目に釣ったのは4匹のイワナ。最後に釣れたのはニッコウイワナらしい個体だったのがちょっと残念。
9時半に切り上げて小屋にもどる。あわただしく昼食をとって荷物をザックに詰めなおす。ウエーディングシューズとウエーダーが濡れた分ザックが重くなったはずだがよくはわからなかった。
小屋番さんとスタッフの青年にお礼をいって11時前に小屋を発った。
小太郎山だと思うが山頂は雲の中だった。山へ向かった登山の人は大丈夫だろうか。
一度ザックを下ろして休憩、ここからストックを使うことにした。来る時はあちこちで足を止めては写真をとったりしたが帰り道はひたすらバス停をめざして歩いた。往路の累積標高は800m超と書いたが、復路も上りの累積標高は600mを越える。下りだからといって楽ではない。
1時15分に無事バス停に着いた。往路は2時間50分かかったが復路は2時間15分で歩けた。タバコをふかしてバスを待った。腕まくりしていたTシャツの長袖をもとにもどすほどひんやりとした風が吹いていた。
最後に今回の釣行で出会った可憐な花の写真をいくつか
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