28日は温泉に浸かったあと、山を下りてコンビニで弁当とビールに地酒を調達、近くの道の駅に車を止めた。シートを倒して寝袋を広げ寝床を作ってからひとり宴会。外は深々と冷え込んできているようで、ときどきエンジンをかけて車内を暖めないと寒くていられない。
缶ビールとコップ1杯の酒がいい具合に眠気を誘ったが、いざ寝袋に潜り込むとなかなか寝付けない。久しぶりの車中泊に気持が高ぶるのか、明日の朝は半端な冷え込みじゃなさそうだ、などと考えていると目が冴えてくる。トイレに行こうと道の駅の休憩所に入ると地元のひとらしいじいさんが二人、酒を酌み交わしていた。そうかここで酒を飲む手もあるな、と次回のことを思ったりした。
車にもどっていつの間にか眠りに落ちたが4時ごろに、寒くて目が覚めた。ダウンジャケットを着こんでまた寝袋にくるまった。
次に目を覚ますと外はすでに明るかったが、そのままうとうとと寝袋から出られない。やっと6時前になってもそもそと寝袋からの脱皮に成功した。水中羽化ならぬ車中羽化だ。
車のウインドウはみんな結露と霜で真っ白、外の様子もうかがえない。ドアを開けると震えるような寒さだった。チェストパックに付けていた温度計を車の屋根において温度をはかると-2℃ほどだった。
放射冷却で空気は冷え切っているが、空は快晴で風もない。予報だとこのあたりでも昼には10℃まで気温が上がる、今日も気持のいい釣りができそうだ。
支度をして川に下りたのは7時20分、気温はまだ0℃に届いていない。フライを結ぶ指が痛くて動かない。たまらず日当たりのいい場所に移ってウエーダーの中に手をつっこんで暖める。しばらく朝日を浴びて突っ立っているとようやく体が温まってきた。
水温はこの日も4℃ほどで外気よりも高い。それでも朝早いこの時間のスタートとなれば沈めるべきだろうとニンフにマーカーをセットした。
まったく反応のないまま1時間ほどがたった。氷点下からのスタートでは反応がないのも承知のうえ、虫や魚が動き始めるのは9時を過ぎるころだろうと思っているので、のんびりと釣りあがる。
左の大岩の手前に魚影が見えた。思ったより浅場に出てきているのかもしれない。重いニンフをポチャンとやっては逃げられそうなのでドライフライに替える。フライに気づいたヤマメが反転してくわえたかに見えたが残念、すっぽ抜け。
魚は逃げてしまったが、ドライフライに反応することがわかって一気にやる気モードに突入だ。
9時を過ぎたところで最初の魚は右の平らな岩と浮石の間で出た。
気温もすでに3℃を越えていた。思惑通りの釣果にほくそ笑む。
そして同じ流れの2メートルほど上流で2匹目。
ここは昨日よりも下流域だがヤマメの体色にはさびが残っている。それでも2匹目のヤマメはぷっくりと太ってコンディションはいい。これから大きくなりそうだ。
ふたつの石にはさまれて流れがすぼまる肩でヤマメがふわっと浮いた。下の流れに引かれてフライが落ちないよう、ロッドを持ち上げてこらえる。がんばって追いついてくれと念じる。
フライを一瞬じっと見つめたヤマメが口を大きく開いた。肩口でのヒットは魚とフライの関係が手に取るように見えて興奮させてくれる。
会心のヒットとなったヤマメはしかも完璧な魚体。サイズもよくてしばし腑抜けたようにその姿を見つめていた。
今月の釣りビジョンでルアーアングラーの平本仁氏の狩野川釣行をオンエアしている。エキスパートアングラーの平本氏にして3日間かけた釣行がついにノーフィッシュで終わると言うなんとも切ない番組なのだが、見ていて不思議と飽きることがない。番組中で平本氏が「釣れないからと言ってもう釣りをやめる、という釣人はいない。」と語っておられるが、釣れなければ今度こそ、だし、釣れればこの喜びをもう一度という気持になる釣人らしい言葉だ。
輝くように美しいこんなヤマメを一度でも釣ってしまったら、そのとりことなって忘れられなくなるのが渓流釣りの魅力だろう。
さらに2匹の釣果を重ねた。最初のヤマメを釣ってからこの魚まで1時間ほどのあいだの釣果だった。
まだまだこれから釣れそうな状況だったが、この日はもうひとつ別の川へ行くことにしていた。
ヤマメとイワナの混生の川、あわよくば今年初物のイワナにお目にかかれるかもしれない、と車を走らせる。
途中の道々には雪が残っていてタイヤがときおり横にすべる。慎重に運転して到着した川にはしかし目を疑うような光景が広がっていた。
清らかな水が流れているはずの渓はうっすらとにごっているように見えた。実際には水がにごっているいるというより川底をクリーム色をした堆積物が覆っていたのだ。
細かい砂のような灰のようなものが底石の間を埋め尽くしていた。これでは水生昆虫は生息できないのではないかと思えた。大物のヤマメがいた渕はすっかり浅くなり、イワナが潜んでいた反転流は姿を消していた。
昨年の台風でどこかの沢で崩落でもあったのだろうか、ふつうの土砂とは異なるような堆積物が何なのかわからないが愕然として立ち尽くすしかなかった。
とても魚がいるようには思えなかったが、気を取り直してロッドを振ってみた。川底は浅く白っぽいので魚がいるいないはすぐにわかる。少しでも底石が顔を出しているような流れを探っていった。
小さなヤマメがフライを追うのが見えた。こんな荒れ果てた流れでもがんばって生きている魚がいたことに少しだけほっとした。
水深のある流芯で飛まつがあがった。
去年生れたヤマメだろうか、こんな状態の川で産卵、孵化したヤマメがいることがほとんど奇跡のように思えた。一度や二度の出水では回復できそうにはない、元の川にもどるには長い時間がかかるのではないかと思う。
午前中の楽しい釣りが帳消しになるような荒廃した流れに意気も消沈となってしまった。この川の上流がどうなっているのかが気になったが、今回は時間もない。この次は上流の様子を見に行こうと決めて川を去ることにした。
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